「落ち着かないから、ちょっとトイレに行ってくるよ。ルカも言っておいた方がいいんじゃないか?」
「じゃあ、交代に行こう」
ケインがトイレを探して人混みから姿を消すと、入れ替わるようにデレクがやってくるのが見えた。
その顔を見た時、心がほっと息をつくのをルカは感じた。
周りにグラスを渡しながらやってきたデレクは、ルカの持っているグラスを取って新しいグラスを渡した。
「『あなたの名前を言ってください』」
デレクは頭の上からこそっと口にした。
「え?」
見上げたルカに、デレクは再び言った。
「『あなたの名前を言ってください』」
ルカはようやく頷いた。
それがラコストが言っていた宇宙局からの伝言なのだ。
その時デレクがムッとしたような顔になった。
その視線の先には戻ってきたらしいケインがいた。
「で? きさま、今夜は女といちゃつく予定か?」
ケインはイヤホンマイクをオフにしてデレクとすれ違いざま、囁いた。
「冗談じゃねえ!!それより、きさま!!いいか!!ルカを守ると言ったら、死んでも守りやがれ!!ルカにもしもの事があったら、きさまなんか、俺が地獄に叩っ込んでやるからな!!よおく覚えとけよっ!!」
かろうじて表情を変えずに、デレクは小声でケインの耳元で言い放つとまた人混みの中に消えた。
「ルカ、トイレに行ってくるかい?」
「いや、相手に会ってからでもいいだろう」
「おお、強気なセリフ」
ケインが苦笑したその時、エミリーの緊迫した声が耳に届いた。
「わかりました! 今、そちらに向かっているこの男、ネストル・レナートヴィチ・フォルチコフ、ロシアの元高級将校で、数年前に急に退役し、ロシアンマフィアに通じて地下に潜ったといわれている男です」
ルカは何気に男を見た。
「すみません、先ほどロシアの実業家でパリに拠点を置いているヤーコフ・コルニェンコ氏と話していたので、すぐに出てきませんでした。コルニェンコ氏はフォルチコフの親の友人というだけで、今のところ何も怪しい点はありません」
金髪の長身、一見エリート風な男は、ルカとケインに近づいてきて言った。
「はじめまして、Mr.スミス」
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます