「やなこった!」
フランス語で話しているのは先ほどルカが見た若いカップルのようだった。
と思った次の瞬間、若い男がギーツェンにぶつかった。
「……っと、わり…」
クリスと呼ばれた若い男の言葉は生粋のパリジャン、という感じだった。
「君たち、ここから先はプライベートルームだから、立ち入り禁止だ」
ギーツェンが冷徹なフランス語で言った。
「え、あ、そう? すんません」
若い男がギーツェンにはすっぱな言葉で詫びた。
「だから言ったじゃない! あ、きゃあっ!」
後ろから若い男を追いかけてきた女の子が、今度は思い切りヒールの足を捻ったらしくルカに倒れ掛かったのを、ルカが危うく助け起こした。
「あ、ごめんなさい……」
「おい、大丈夫か? カッチ」
若い男が伸ばした手を取って女の子は言った。
「も、戻るわよ! 立ち入り禁止だって」
「わかったよ! ちぇ、探検すると面白そうなのに」
「ドレスがくしゃくしゃ! クリスのせいよ!」
「わるかったって! 下でラズベリーパイもらったげるから」
「あたしが好きなのはグランベリーパイ」
「ええ? あったかな」
二人の他愛もないやり取りが背後で聞こえ、やがて二人が階段を降りていくのをルカはチラリと見た。
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