春の夢26

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 ところが翌日、そのアレクセイの危惧が大当たりした。
 朝、ボックスで顔を合わせたばかりだった。
 マイケルはアレクセイが来たのを見て立ち上がると、いきなり彼を殴り倒したのである。 
 幸か不幸か、アレクセイは咄嗟に少し避けたので、その殺人パンチをまともに受けることはなかったものの、口を切ってひどく出血した。
「どういう理由かも言わずに殴るわけか?」
 やおら立ち上がりながら、アレクセイは訊ねた。
「そんなものは自分の胸に聞いてみろ!!」
 他の皆は突然の出来ごとにびっくりしたが、アレクセイは、「医務室に行ってきます」とそのまま出て行った。
「一体、何だって言うのよ!!」
 今度はミレイユがマイケルにくってかかる。
 ロジァは静かにそれを制した。
「各々仕事に戻って下さい」
 ミレイユはするとムッとした顔でロジァを睨みつける。
「コンピューターじゃないのよ! 私達は!! こんなこと放っといて、仕事なんかできるわけないでしょ?!」
「私語は慎んで下さい」
 ロジァはそれでも冷たく言い返す。
 ミレイユは唇を噛み締め、拳を震わせてしばらくロジァの後ろ姿を睨みつけていたが、バシンとデスクを叩いて自分のデスクに戻った。
 茫然として突っ立っていたのは、マイケルの方だった。
 カテリーナとケンは言葉もなく状況を眺めていた。
「ボス、大丈夫でしょうか、アレクセイのようす見てきましょうか?」
 ケンは言った。
「すぐ戻ってくるでしょう。騒ぐと局長に知れます」
 抑揚のない声でロジァが言った通り、しばらくするとアレクセイは戻って来て自分のデスクについた。
 頬を氷で冷やしていたが、何も言わず、片手でキーボードを打ちながら仕事を始めた。
 案の定、その事件は局長の耳に届いたらしかった。
 昼になる前に、エッシャーを控えて局長自らボックスにやって来た。
「グシュトラインから聞いた。一体何事だ? この研究所内で? ロジァ」
 医務室から漏れたらしい。
 局長は明らかに怒っていた。
「局長」と言いかけたマイケルをロジァは制した。
「別に何でもありませんよ」
「何でもないのに、何でアレクセイが殴られる? 殴ったのはお前か?」
 局長はまともにロジァに問いただした。

 


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