ケンがオンボロキャディーを停めたのは、『ヘル・ストリート』の前だった。
入口にたむろしているのはタトゥーを入れ、髪を思い思いの色に染め、破れたジーンズにごついアクセサリーを身に着けた少年たちだ。
黒人、南米系、白人、アジア系、人種はさまざまだ。
少年たちの間を通り抜け、階段を降りて行った。
ドアを開け、ケンが入って行くと、周りの少年たちが一斉にジロジロと視線を向けた。
大音響のロックが響き、ここではゆっくり話なんかできそうにない。
ちょっと場違いってやつかもな、などと思いながら、辺りを見回した。
ロジァがそこにいるのかどうか分からなかったが、彼はロジァはよくここに現れるという噂を頼って来てみたのだった。
すると、背の高い南米系で、スキンヘッドのごつい男が近づいてきた。
「坊や、何か探し物かい?」
男はニヤニヤ笑いながら、そう訊ねた。
ケンは、坊や、と言われてカチンとくる。
「ああ、ロジァ、いないかな?」
「ロジァに何の用だ?」
「ちょっと相談があって」
ロジァと聞いて、周りにいた少年たちも寄ってきた。
「ロジァに何の相談だ?」
いつの間にかケンは数人の少年たちに囲まれていた。
「彼、いないのか?」
ケンはなるべく穏やかに聞いてみる。
「ああ、そのうち来るかもな」
一人の少年が、ケンの肩に腕を廻す。
「じゃあ、少し待ってるよ」
ケンはその腕をさりげに払う。
「少し待ってても来ないかもな」
「明日になるかも知れないし」
別の少年が言う。
少年たちはからかうようにケンに詰め寄って来る。
ケンは少々やばいかな、とも思ったが、ここまで来ては引くわけに行かない。
「カウンターで待ってることにするよ。悪いけど、ちょっと退いてくれないかな?」
しかしいきなり目の前のごつい男が、ケンの顎を掴む。
「退けとは俺に言ってるのかな? 坊や」
ケンは思わず、その手を払いのけた。
「そう、君に言ってる」
しかし男は退いてくれようとはせず、今度はケンの胸ぐらを掴んだ。
「可愛い面して、いい度胸だなあ、坊や」
「あのね、俺はケン。坊やじゃない」
「じゃあ、ケン。ロジァが来るまで俺が遊んでやるよ」
男は酔っているようだった。
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