「あれはお前の企画だろう、お前が行け」
スパっと工藤に言い返されて良太は戸惑う。
「え、でも……」
俺は会社にいることにしたなんて、言ってないし!
「お前が呑気に入院なんかしてるから、俺が代わりにコンペに行っただけだ。自分の担当した仕事を放り出したりしないんだろう?」
良太はムッとする。
揚げ足取りやがって!
「俺は忙しいんだ。ぐたぐた言わずにやれ」
「わかりましたよ! やればいいんだろ?!」
良太は悔しくて思わずやけっぱちな言葉を投げつける。
「やるのは明日でいい。とっとと帰って寝ろ」
工藤は言い置いてドアに向かう。
「あ、それと電話が、ホットラインの」
ドアを開けたまま、工藤は険しい表情で振り返る。
「でも、出かけてるって言ったら切っちゃって。誰とも名乗らなかった。男だったけど」
「そうか」
工藤はおざなりに返事をしただけでオフィスを出て行った。
「何なんだよ! バカオヤジ!」
しばしあって、また工藤の頭ごなしな命令を思い出して良太は叫ぶ。
やっぱ、あんなの夢で、俺のただの願望だったんだ!
こんな状況でなければ、自分の企画が通ってそのまま自分が担当する、なんてことはメチャ嬉しいはずだった。
単発の特別番組だが、若きスラッガーたちの素顔を追う、というもので、ありきたりなテーマだが、自分も野球をやっていたという視点に立って描く。
おそらく沢村を中心にというのが通った理由だろうけれど、アマチュアのクラブチームの選手にもスポットを当てるつもりだ。
大手電話会社NDIがメインスポンサーで、スポーツウエアの企業も若干名を連ねる。
絶対面白い番組にしてみせる。
いつの間にか会社を辞める辞めないはどこかに行ってしまっている。
それにしても、ホットラインの男のことが気にかかる。
怪しい。
絶対怪しい。
その電話のことは、良太の心の隅に深く残った。
その日は賑やかだった。
小林千雪原作の老弁護士シリーズのドラマがクランクアップして、夕方頃から出演していた俳優陣の数人がオフィスを訪れていたのだ。
当然、黒川真帆もいるし、たまたま小笠原やアスカや秋山も打ち合わせでオフィスにいた。
大テーブルは彼らが持ってきたシャンパンやワイン、チーズやローストビーフ、サラダや有名パティシェりのスイーツなどでうまり、ちょっとしたパーティと化していた。
ここのところ何やらまるで良太の引き抜き云々などなかったかのように良太の日常は元通り、忙しく飛び回っていた。
工藤も否応なく良太に仕事を言い渡し、なし崩し的に良太は動かざるを得なかった。
その日も急ぎの仕事を終わらせてしまいたかったのだが、鈴木さんも帰ってしまったし、タレントを放っておいてパソコンに向かうわけにもいかない。
それより前に、真帆などは、良太、あれ持ってきて、これ持ってきて、と名指しで命令してくださる。
無論呼び捨てだ。
ムカムカしながらも、グラスや皿を運んだり、湯を沸かしたりするのだが、工藤がそこにずっといるのも面白くない。
真帆のことどうでもいいと思っているなら、とっとと出て行けばいいじゃんかよ。
「公認の仲、ってとこじゃねぇ? 真帆もよくやるよ」
小笠原が揶揄しているのは、当然工藤と真帆のことだ。
というより、ドラマの撮影に工藤が現れるたび、真帆が工藤さあん、と擦り寄ったわけだ。
うざいだけなので、ああだこうだ言うのも面倒で真帆に勝手にしゃべらせ、うんともすんとも答えず、撮影のチェックをしていた工藤だが、それを毎回SNSやワイドショーなどで取り上げるものだから、すっかりツーショット状態だったのだ。
アスカは珍しく静かにワインを飲みながら、真帆の盛り上がりを見て秋山に肩を竦めて見せる。
「何か、ちょっと触らぬ神に、ってとこだな」
秋山は秋山で、煙草をくわえたまま腕組みをして苦々しい顔で立っている工藤を目で指し示す。
「嵐の前?」
アスカがこそっと呟く。
「トルネードだろ?」
何か起こるに違いないと二人は面白がって見守っている。
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