「工藤さぁん、飲みません?」
いそいそと真帆は工藤のもとへグラスを運ぶのだが、「いらん」とにべもない答えを投げられて、唇を尖らす。
「すんごい美味しいのに、このシャンパン」
テーブルに戻るとすぐ、チキンを齧りながら笑っている真帆はくったくがない。
「やあん、襟が汚れちゃったぁ。良太ぁ、ナイフとフォーク持ってきてぇ」
この……!
「んなこた、自分でやらせろ!」
キレそうになりながらも、良太がキッチンに向かおうとした時だ、部屋中に響き渡った雷。
「良太、行くぞ」
「へ?」
きょとんと、良太は工藤を見つめる。
「メシだ。さっさとしろ!」
「え……でも、タレントさんたち………」
「ほっとけってのが聞こえないのか!」
とっととオフィスを出て行く工藤のあとを、「何だよ、勝手なこと……」とブツブツ言いながらも、少し溜飲が下がる思いで良太は追いかける。
二人が出て行くなり、ポカンと呆気に取られている真帆を見て、堪えかねたようにアスカが笑い出す。
すると、秋山もつられて笑い始めた。
「うまいい!」
連れて行かれた寿司屋で、トロやらウニやらをほおばり、工藤のことを怒っているんだと、わざわざ思い出さなければならないくらい、腹立ち紛れに良太は遠慮なくいただいた。
日本酒もやり、一体何万使わせたんだろう、と一瞬は思ったものの、店を出た良太はすっかり出来上がっていた。
「もう一軒、行きましょうよ、シャチョー! さしで飲もうよ、今夜はとことん!」
「わかったから、歩け、こら」
「はーい」
タクシーを拾うと、半分眠っている良太を押し込み、高輪を告げた。
水、水、と騒ぐ良太に水を飲ませると、タイを外し、ベルトをゆるめてやってから、正体のない良太をベッドに寝かせ、工藤はバスルームに消えた。
「あっれー、ここ、どこだぁ?」
とろんとした目で良太は周りを見回すと、おぼろげに記憶を辿る。
「なんで、工藤の部屋に、いるんだよ」
ふらりとからだを起こし、良太は自分に文句を言う。
「あんなやつ、金輪際、関わりあわねーんだから」
喚いたものの、またパタン、と倒れこんであとは記憶が飛んでしまった。
再び目が覚めると素裸でベッドで寝ていて、しかも隣には工藤がいた。
がば、とからだを起こすと、「何でだよ!」と良太は喚く。
「うるさいな、朝っぱらからでかい声出すな」
工藤が寝たまま文句を言う。
「何で俺、あんたと寝てんだよっ!」
フン、と工藤が起き上がる。
「お前が誘ったんじゃないか。また、覚えてないのか?」
不埒な眼差しで工藤はほくそえむ。
切れ切れの記憶を辿ると、確かに工藤に縋って泣いたような………。
「あんたが仕組んだんだろっ! 人に酒飲ませてっ!」
「お前は酒でも飲まないと、本心を吐けないからな」
ニヤリ。
「自分は何だよっ!」
真っ赤になって良太は叫ぶ。
「全く、うるさいと言ったろう」
その唇はふさがれてしまう。
押し戻すには、今から起きようというには情熱的過ぎるキスにごまかされて、良太はまたベッドの中に沈む。
「ちょ、何すんだよ! この淫乱オヤジ! 俺は怒ってんだぞ……あっ……………!」
オヤジはそういうことにかけては素早かった。
入り込まれて翻弄されて、良太は甘く泣かされる。
クソ………
だけど、やっぱりあれは、夢じゃなかったかもしれない。
握っている手のぬくもりはあの時と同じだし。
だったら許してやってもいい。
ほんの、ほんのちょっとだけならな。
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