月さゆる31(ラスト)

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  エピローグ
 
 
 秋風がすっかり冷たくなってきた。
「良太ちゃん、いたいた」
 オフィスに顔を見せたのは、マフラーをきっちりウールのスーツに合わせた藤堂だった。
「藤堂さん、打ち合わせ、三時からですよ? まだ、二時」
 良太はパソコンから顔をあげて言った。
「お土産だよ~」
 藤堂が手に持っていた袋を差し出すと、良太はすぐと立ち上がった。
「あ、キャンディのシュークリームだ!」
「そうそう、一緒に食べようと思ってね」
「まあ、おいしそう!」
「もちろん、鈴木さんの分もありますから」
「お茶、入れますね~」
 鈴木さんも機嫌よさげにキッチンに入っていく。
 そろそろ冬将軍の到来も近い。
 静かな午後のオフィスにちょっとした和やかムードが漂う、今日この頃。
「いっただっきまーす」
 美味しそうにシュークリームをほおばる良太を見て、藤堂は何とはなく、うん、うん、と頷く。
「やっぱこーでなくては」
 そう呟いて藤堂がシュークリームに噛り付いたその時。
「何をやってるんだ、藤堂」
 オフィスのドアが開いて入ってきたのは、ここ青山プロダクションの社長殿だ。
「いや、ちょっとおやつを」
「打ち合わせだろう」
 工藤はにべもなく言った。
「でも、まだ三時までには時間が……」
「俺もお前もいるのに、待つ必要がどこにある。早くしろ」
「はあ…」
 かじりかけのちょっとした幸せをとりあえず皿に置き、藤堂は不承不承立ち上がる。
「すみませんね、ああゆーオヤジなんで」
 良太が片眉をあげて申し訳なさげな顔をする。
 良太が病室で目を覚ました時、椅子に座った工藤が良太の手を握り締めたまま布団の上に倒れるようにして眠っていた。 
 もうそれだけで、良太は何だかひどく切なくて、けれどひどく幸せになった気がした。
 今になって良太の脳裏にそんなことが思い起こされる。
 あれはひょっとして夢じゃなかったのかもしれない。
「良太、例のメール、送ったか?」
 ぼおっとしていると、雷はあちこち飛び火する。
「あ、いっけね、まだです……」
「とっとと送れ!」
 鬼の怒号がちょっとした和やかムードもぶち壊す。
 
 何はともあれ、青山プロダクションにとっての日常が取り戻された十月下旬の午後であった。 
 
 

 


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