良太は沢村と再会した頃、一緒にアメリカへ行こうと誘われていたことを思い出した。
「だが、今は佐々木さんがいるし、別にアメリカに行かなくてはならない理由もないし」
「おい、MLBはやめたのかよ?」
MLBに行こうと思えば行けないはずのない状況なのに、クソ、と良太は思う。
「行くつもりならもっと早い時期だろ。仮にこのオフ行けたとしても、佐々木さんとこれ以上離れるつもりはないし、来年、再来年じゃ、実力的に下降気味に入ってくる可能性があるから、わざわざ話題作りなんかするつもりはない」
いつもながら沢村は冷静に自分の力を判断している。
だが、佐々木のこととなると冷静な沢村が消える。
「俺は佐々木さんのこと本気だからな、どうせならせっかく買った土地にうちを建てたいってわかるだろ? お前も俺も、今、帰るうちがない状況だからさ」
「そうだな」
金のあるなしではなく、確かにわからないではない。
「でも躊躇してるってわけか」
沢村なら、やろうと思ったらやっているはずだ。
それができないのは、佐々木のことを思うからだ。
「佐々木さんが怒るのはさ、俺とこの先ずっと、とか考えてないからだ」
良太には佐々木の気持ちもわからないではない。
沢村が家を建てたとして、もし、二人が別れることになったとしたら、非常にまずい状況だろう。
「俺をどこかで信用していない」
「それはさ、やっぱ佐々木さん、バツイチだから、余計なんじゃないか? 奥さんに去られた形だって聞いたし」
あの優しい佐々木さんを振るとか、良太には理解できないのだが。
「まあ、おそらく、彼女の方が疑心暗鬼になっちまったんだろ。なんか、直ちゃんよりふわふわって感じだった」
「そういや、わざわざ奥さんに会って、絵も買ったとか言ってたな? お前」
佐々木の元妻である森野友香は画家で、現在スペイン在住だという。
その友香が今年の二月に帰国して銀座で個展を開いていた時、佐々木と一緒にギャラリーを訪れて、佐々木が気に入ったという絵を沢村が買ったという。
沢村、絵なんかわかりもしないくせに、と良太は自分を棚に上げて心の中で呟いた。
「元、ワイフだ。箱根に飾った」
「ふーん。まあ、家ってのは、文字通り不動産だから、絵なんかと違ってホイホイ移動できるもんじゃないし、お前が自分の家を建てたいってのはわかるけど、佐々木さんともうちょっと話してからのほうがいいんじゃないか?」
良太にも妥当な意見しか出てこない。
明日がどうなるかわからないというのは、誰しも考えることだ。
「お前とは少し違うかもだけど、俺もさ、今の部屋、出た方がいいんじゃないかとか思ったりしたんだよ」
「お前が?」
せせら笑うように沢村は聞き返した。
「だから、曲がりなりにもアラサーで、亜弓だって教師って地道な仕事に就いてるのに、俺もいい加減地に足を付けたいっていうか、そうしないとダメな気がして」
「何で? お前、ちゃんと仕事やってるじゃないか。このロケだって工藤の代わりに仕切ってるし」
沢村は軽く言った。
「前は俺の仕事をクソミソに言ったくせに」
「お前の仕事はちゃんとみないとわからないんだよ。仕事ってより、工藤か」
良太は沢村を見た。
「あのオッサン、バックもあるし胡散臭いからな」
沢村は笑った。
「ま、でも、それなりにお前を大事にしてんじゃねぇの? こないだの事故の時もさ」
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