残月36

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「あれは、まあ、俺がトチったから」
 良太は苦笑した。
 それでも、沢村がそんな風に言ってくれると良太も少しはそうかな、とは思う。
「結局、あの部屋出てないだろうが」
「それは、実際のとこ、工藤にまだ借金があるし、今の仕事を続けるんならあの部屋がやっぱ一番都合がいいってか……」
 というより、やはり工藤が隣にいるというのが大きいのだ。
 工藤も高輪に帰るよりもどちらかというと、会社の上にある部屋の方が使い勝手がいいらしい。
「フン、案外…」
「何だよ?」
「いや…」
 案外、工藤は借金があることで良太をつなぎとめておこうという腹なのではないかと、沢村はふと思ったのだ。
 三千万とかいったが、その程度の金、工藤にとっちゃ大したことはないだろう。
「あのさ、お前があの土地にうち建てるって、やっぱどうしても、二人にとって重要な意味を持つことなわけだし、すぐに必要とかいうわけじゃないだろ? やっぱじっくり佐々木さんと話してみるしかないんじゃね?」
「………だな」
「個人的には、お前に帰る家ができるってのはいいことだと思うぞ」
 沢村はフンと笑って帰って行った。
 家か。
 この会社に入ってからがむしゃらにやってきたが、金銭的にも家なんかのことまで考えたことはなかった。
 だが、自分の家がというより、両親に家を取り戻してやりたいというのはずっとある。
 元の家でなくとも、せめてちゃんとした家かマンションか。
 ま、そんなの、借金がある身で夢のまた夢だけどな。
 良太が沢村と別れて現場に戻ってみると、撮影が中断されて、何やら揉めている。
 たったさっき再開されたばかりだぞ。
 今度は何だよ?
「何かありましたか?」
 良太は日比野に尋ねた。
「ああ、いや、ちょっとね」
 日比野はそれだけ言うと、一つ溜息をついた。
「桃子と奈々の立ち位置が逆だ。ここで俺は奈々の手を掴んで走らなくてはならないんだから」
 日比野に代わって檜山が答えた。
 桃子が奈々の前に出ているので、檜山は手を伸ばしても奈々に届かない。
 また二村かよ、いい加減にしてくれ。
「だってあたし、ずっと奈々の後ろに隠れてて、ちっとも画面に映らないじゃない!」
 この発言に、良太のみならず周囲の誰もが呆れて二村を見た。
 それは奈々はレギュラーで、二村はワキで、ゲストでもないからしごく当然なんだけど。
「二村さん、とりあえず、今のカットは指示通りの位置でお願いします」
 監督も怒鳴るような人ではないから、二村に優しく言った。
「わかりました」
 一応二村はそう答えたが顔が怒ったままだ。
 スタートがかかって、カメラがまわり始めたがずっとそんな表情のままなので、逆に後ろの方で何をこの人は怒っているのだろう的なシーンになっている。
 科白を言う前に、日比野はカットを口にした。
 さすがにちょっと険しい顔をしている。
「ちょっと休憩にしましょう」
 良太はこれはまずい状況だとわかった。
 これでは撮影が進まない。
 やはり工藤でなければ、竹野かアスカかひとみでも連れてこなければ、二村の勘違いが軌道修正されることはないのかよ。
 いったい二村、どんな人生送っててきたんだ?
 社会にはまず、出たことないよな?
「二村さん」
 良太はやはり面白くありませせん、という顔をして座っている二村に声をかけた。

 


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