残月50

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 タブレットで連絡を取りながら、試合の様子も気になっていた。
 そして夕食中もタブレットを覗き込んでいた良太は、沢村の適時打でタイガースが逆転したところで、思わず大きな声を上げた。
 そのまま試合はタイガース勝利で、ついにCSファイナルを制した。
 良太は、やったな、おめでとう! と沢村にラインを入れ、パワスポのディレクター殿村とテレワークで打ち合わせをした。
 明日はパワスポの会議に出向かなければならない。
 浮かれてばかりいられないと、ベッドに入る前に、良太は工藤に二村の件の結果報告をした。
「その三木原はどうだ?」
 もう二村がどうなったとかはどうでもいい、工藤はそんな口調である。
「あたりです。演劇やってた人で声も出てるし、日比野さん喜んでます。スケジュールも少し挽回しました」
「とにかくそっちをきっちり終わらせてニューヨークに送り出してくれ」
「わかりました。あと、例の水波の件でアスカさんのドラマ撮り直しが決まりました」
「そっちはお前に任せる」
 で、切れた。
「何だよっ! まだ斎藤さんのこととかも話そうと思ったのに!」
 携帯に怒鳴っても無意味なことは重々承知しているのだが。
 ニューヨークのトラブルは解消したのだろう。
 何となく声のトーンから、イラつき具合が収まっている気がした。
 無事京都ロケを終わらせたら、中一日で撮影隊はニューヨークに発つことになっている。
 強行軍だが、ニューヨーク滞在は機内泊を入れて二週間、うまくいけばオフを利用して散策も可能だろう。
「なんだ、良太は来ないのか?」
 檜山は残念そうに言った。
「案内したいところとかあったのに」
 檜山にとってニューヨークと言えば古巣に帰るようなものらしく、彼にしては楽し気な様子が伝わってくる。
「俺まで行くと、こっちでの仕事がお手上げだからな」
 行ってみたいのは山々だが、抱えている仕事が山積みだ。
 覚せい剤所持で逮捕された水波清太郎と一緒にアスカが出演したドラマやブライトンタイヤのCMは、撮り直しが決定した。
 その難関の前に、パワスポがある。
 セ・パ両リーグの覇者、関西タイガースと関東ライオンズの日本シリーズの取材が待っている。
 それは久々良太にとっても楽しみな仕事だ。
 個人的にはタイガースの沢村が日本シリーズでどんな活躍をするのか。
 考えるだけでワクワクする。
 良太自身は野球からすっかり離れてしまったが、こうして仕事として野球を報道する側の関係者になったというのも、何か因縁のようなものを感じないではない。
 そういえば、工藤と初めて会ったのが、何と高校時代、野球の練習中だったというのも、おかしな縁といえる。
 そのことはまだ工藤にも誰にも話してはいないが、考えるとやはり縁というか、もしかあれが岐路だったと思われるのは、大学の募集要項で青山プロダクションを見つけて面接に行った時になるのだろうか。
 無論破格の報酬に良太がこれしかないと思ったのは事実だが、工藤の、伯父が暴力団組長だ、の発言に他の皆が踵を返す中、腰を浮かしかけたものの、そこに留まったという、そこにこそその縁が関係して今があるのでは、などとも思ってしまう。
 とにかく今、良太は少しだけ地に足がつき始めた気がしていた。
 ここしばらくもやもやしていた自分の立ち位置も、自分で認めてみようと思えるようになった。
 翌日、午前中まで撮影に同行していた良太は日比野と軽く打合せをして午後から東京に戻った。

 


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