残月65

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 ニューヨークでの撮影が終わり、一足先に戻ってきたらしい工藤は、良太が再び目を覚ました時には既に出かけていた。
 十一月になればまた志村や小杉とCMの仕事で工藤がドイツに行っている間は、また京都での撮影には良太が出向くことになっている。
 水波関連のドラマの撮り直しはまだスケジュールが決まらず、打ち合わせに良太も呼ばれている。
 藤堂とニューヨークに行っている佐々木が戻ったら、こちらも水波の撮り直しCMの打ち合わせをしなくてはならない。
 追撮でアフリカに行っているレッドデータの一行が戻ってきたらまたスタジオに詰めることになるだろう。
 そんなことを考えながら、良太は溜まっていた書類作成にいそしんでいた。
 午後から二件ほどスポンサーのところに顔を出して夕方戻ってくると、工藤が珍しく奥のデスクで電話をかけていた。
「昨日、英報堂に行ってきたんですけど」
 工藤の電話が終わるのを待って、良太は言った。
「ああ、乾さんから連絡がきた。打ち合わせは今後お前が行くと言ってある」
「は? 俺でいいんですか?」
 もとい、これも俺に丸投げかよ!
「佐原がお前に直接アポを取ると言っていた」
 そう言うと工藤はまた電話を取った。
 まあ、いいけど。
 工藤の仕事を少しでも減らせればということを考えると、良太は反論もできなかった。
 丸投げはクソって思うけどさ。
 鈴木さんは、工藤と良太にコーヒーを入れてから、「お先に失礼します」と帰って行った。
 しばらく良太のキーボードを叩く音と、工藤の電話の声だけがオフィスに響いていた。
 やがて電話を置いた工藤が立ち上がって、「今日はフレンチだ」という。
「え?」
 良太は振り返った。
「局時代の同期が退社して最近フレンチの店を開いたんだ、西麻布に」
「近いんですか?」
 美味いものを食べに行くと聞けば、条件反射で良太はパソコンを閉じた。
「まあ、車で五分くらいか」
「ちびたちにご飯やってきますから、ちょっと待っててください」
 良太はそそくさとエレベーターに向かう。
「フレンチなんて、工藤にしては珍しいと思ったら」
 見るからに欧米系の顔をしているくせに、工藤の好みはコッテリ系ではなく和風で、日本酒をちびちびやる昭和のオッサンスタイルだ。
 たまに行く、軽井沢のイタリアンの店は、平造の顔なじみがシェフだからだ。
 会社の前でタクシーを拾い、カミーユ、という看板の真新しいレストランの前で二人は降りた。
 大通りから一本入ったビルの一階に入るカミーユは、テーブル席が五つとカウンター席のあるこじんまりとした店だった。
「よう、やっときたか」
 二人を出迎えたのはスマートな紳士だった。
「オープニングに来いっても顔をみせないし」
「京都に行ってたんだ」
「ったく相変わらず仕事の鬼だな」
「フン、うちの広瀬良太、オーナーの夏川だ」
 工藤は夏川の揶揄も無視して紹介した。

 


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