ペルセウスへ1

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 八月も中旬にさしかかり、相変わらず猛暑が続いている日本列島、声を大にして鳴く蝉にすらお疲れ様と言いたくなる午後一時。
 まさに炎天下。
 熱せられた鉄板のようなアスファルトの道を坂本龍成はたったか歩いていた。
 それでも街路樹の下ならまだしも影が多少の熱を下げてくれているような気がする。
「クッソ、何で車で来ないんだよ!」
 行く先が地元の世田谷だからと高をくくっていた己に文句を言う。
 秋から放映予定のドラマの監督に、「ちょっとピンチヒッター、頼むわ」などと言われて、夏休みでもあったために、よく話も聞かずに、いいっすよ、なんて言ってしまったのが運の尽き。
 以前やったようにエキストラで、学生その一で、先週のキャンパスの撮影で終わると思っていたのが、今日はスタジオでカフェのシーンだという。
 最初に撮影が何回あるかを聞いていなかったのは自業自得と、出かけてきたわけだが。
 今月の初めに、たまたまバイトでやっていた雑誌の撮影で一緒になったのが、最近売り出し中の俳優石野工で、もちろん石野がメインで坂本はその他大勢だった。
 その時たまたま石野に同行していた、石野の所属する未来企画の社長が、「君、どこの事務所だっけ?」と坂本に声を掛けてきた。
「え、俺はどこの事務所でもないっすよ。この雑誌で使ってるアパレルのバイトです」
 坂本は軽くそう返答した。
 ところが「ええっ?」とちょっと驚いたようにその社長はグイと坂本に近づいた。
「ウッソだろ? 完全にうちの石野、負けてるし、じゃあ、どっかでエクササイズとかやってるんだ? いい身体してるし」
「いや、別に、昔バスケやってたくらいで」
 ああ、トレーニングといえば、たまにちょっと格闘技? もどきやってたかな、などと心の内で坂本は突っ込みを入れる。
「イケメン、しかも業界のベテランのごとき出来上がったそのオーラ、うちの事務所、来る気ない?」
 この業界にちょっと足を踏み入れただけではあるが、大仰な物言いといい、こういう連中の集まりなんだ、と坂本は俯瞰で見下ろした。
「いや全然」
「いや、やるべきでしょ、俳優とか、モデルとか」
「俺、法律家になるんで、そういうの、全然」
「法律家? そんなもの、両刀でいけばいいだろ? 今流行りの」
「流行りって、このバイトも親がアパレルの社長の友人ってだけでやってるし」
 坂本が思い切り上から目線の発言をしても、社長は怯まなかった。
「あ、すまない、私は未来企画の磐田といいます。もし考え直したら携帯、電話して?」
 磐田は名刺を取り出して坂本に突き付け、一旦は引き下がった。
 しかし、撮影が終わると、また坂本に近づいてきて、「ちょっとは考え直した?」などと聞く。
「いや、ほんと。バイトも別にやらなくちゃってわけでもなくて、頼まれてやってるんで」

 


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