空は遠く105

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 店を出ると柳沢は駅へと向かったが、てっきりそのまま帰ると思っていた坂本が、佑人を送っていくと言う。
「わざわざいいって、女じゃあるまいし」
 坂本を振り払って佑人はたったか歩き出すが、坂本はすかさず道路側から佑人の横に並んで歩く。
「そうはいかないんだよ、女じゃなくても成瀬、襲ってみたくなるやついそうだし」
「な…に、バカなこと言ってんなよ!」
 坂本の言葉はいちいち癇に障る。
「怒った顔もステキとかって、言われない?」
「茶化すな」
 辺りはすっかり暗くなっていた。
 確かに、中学にあがってすぐの頃、変な男にあとをつけられたことがあったのを思い出して、不快な気分になる。
「心配なんだよ」
 成瀬家の生垣に差し掛かった頃、坂本の手が佑人の腕を掴んだ。
「心配? 何が」
「成瀬が、あやうくて」
「何だよ、それ」
「蜘蛛の糸を必死に渡ろうとしている、ってな感じ? ちょいとバランス崩れたら奈落に真っ逆さま」
 妙な比喩を使う坂本を鈍い街路灯の明りの下で振り仰ぐと、皮肉げな笑みさえなければ甘いイケメンの部類に入るだろうその目は、得体の知れない光を湛えているように見えた。
「奈落に落ちようと俺の勝手だ」
 坂本の腕をほどこうとして、佑人は逆にもう片方の腕も取られ、生垣に押し付けられる。
「何するっ…!」
 驚いて目を見開く佑人のすぐ近くで、坂本は呟く。

 


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