空は遠く106

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「一緒に落ちたいな…成瀬となら。メガネ、邪魔だなぁ、それ、伊達だろ?」
 ぐいぐい坂本は佑人に身体を押し付ける。
「やめ……」
 もう少しで唇が触れていた。
「何、やってんだよ! てめぇ!」
 唐突に背後から大きな影が現れた。
 坂本がその声の主に意識を向けた一瞬のうちに、佑人は拳を坂本の腹にくらわせる。呻きながら坂本は苦々しい顔で腹をおさえて佑人から身体を離した。
「……ってぇ、……いいパンチしてるじゃねぇか、成瀬……」
「バァカ、手加減してくれたんだぜ? なあ、成瀬」
 いつから二人の近くにいたのだろう、ヘルメットを手にぶら下げて、坂本の背後に立った力は佑人にきつい視線を向けた。
 まさかと思っていた力の出現に息をつくのも忘れて佑人は驚いた。
「……力……、てめぇこそ、こんなとこで何してんだ?」
 坂本はようやく息をつく。
「俺か? 俺は散歩の途中」
「ハ…ウッソつけよ……!」
 坂本はまだ少しよろめいている。
「暇なやつらだな。俺はガードなんかいらないって言ったはずだ」
「暗がりで成瀬くんを襲っちゃおうなんていう輩がいるじゃねぇか、おら、ここにも」
 坂本を顎でしゃくって揶揄する力の言葉に、カッと頭に血が上る。
「……ふ…ざけんな!」
 唇をきつく噛みながら、佑人はきっと力を睨みつけ、そのまま彼らに背を向けた。

 


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