すると郁磨はクスリと笑う。
「よくわかってるね。君たちも気をつけて」
郁磨と別れ、成瀬家の生垣の端まで来ると、坂本は「ややこしいことになったじゃねぇか」とボソリと言った。
「お前のせいで、俺が何で山本力だ!」
「るせぇよ!」
「お前だって、ガラにもなく優等生ぶりっ子しちゃってよ」
「仕方ねぇだろ、あの兄貴を信用させるのに」
「第一、何で兄貴にあんなこと」
「成瀬が俺らを嫌がるから、兄貴に頼むのが一番手っ取り早い」
力の言い分に坂本は心の中で一応納得する。
「俺ら、じゃなく、お前だろーが? 兄貴だってあぶねくね? しかし、美貌の兄弟だな」
「あぶねぇもんかよ、木戸よりこっちに、もうひとつ門があったろ? 成瀬のじいさん、空手の師範なんだ」
「え、ほんとかよ? じゃ、ひょっとして成瀬も、もちろんあの一見ひ弱そうな美貌の兄貴も強かったり?」
「高校ん時、全国で優勝してる」
「げ……そうなん? なるほどね……にしてもお前、よく知ってるじゃん」
坂本の突っ込みに力はしばし口を閉ざす。
「………たまたま見たんだよ、雑誌か何かで」
「へーえ?」
「乗ってくか?」
そこには力のバイクが停めてあった。
「このいでたちでバイクなんか乗ったら、凍えちまう」
「フン」
「とっととヤツら、ぶっ潰そうぜ」
「わーかってる!」
坂本は駅へ向かい、力も郁磨に頼んだことでいくらか緊張の糸を緩め、バイクに跨った。
だが二人はこの時、てっきり家に帰ったと思った佑人が裏から出て行ったなどとは、思いもよらなかったのだ。
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