佑人は無遠慮な視線を無視してドアに一番近い壁際のテーブルに着いた。
リュックを椅子に引っ掛けて座ると、顎に髭をたくわえた店員らしき男がカウンターから出てきて、「ご注文は?」と聞く顔が何やらにやけている。
「コーラ」
男がカウンターに戻るのと入れ違えにやってきたのは、見覚えがある顔だった。
「驚いたねぇ、成瀬くん? こんなところまで自分からわざわざ来て下さるとは」
その表情がしまりなくゆがんでいると、アクセサリーやシャツまでがしまりなく見えるのかもしれない。
「こないだ、何か俺に用があったんじゃないかと思って」
佑人はじっと相手の目を睨みつけるように見つめて言った。
「ああ、あったんだ、成瀬くんに」
「じゃあ、関係ない東山を巻き込むことないだろ?」
男はニヤケながら佑人に近づき、また下卑た笑いを浮かべた。
「ああ、あれはたまたま。でも間近で見ると…んっとに、きれーだねぇ、成瀬くん」
おちゃらけた返事に、さらに無言で佑人が男を睨みつけると、男はそのまま向かいへ座った。
「それにさ、かなーり気ぃ強いみたいだし、俺、好きだなぁ、そうゆーの」
にへらにへらと笑うその表情から歪つな雰囲気を嗅ぎ取って、佑人は眉をひそめる。
そこへ先ほどの髭面の店員が、トレーにグラスに入ったコーラを二つ載せてやってきて、二人の前に置いた。店内の奥に派手な金髪の女が一人いるだけで、あとは男ばかり、全部で六人。
それだけなら喧嘩になっても、負けるつもりはない。だが、東山が言っていたように、どこかに連れて行かれて大人数でかかってこられたら、どうなるかわからない。
まあ、こいつらもそうバカじゃないだろうから、警察に通報されるようなマネはしないだろう。
佑人はそんなことを考えながら、目の前の男がコーラを飲み干すのを見て、コーラに口をつけた。三分の一ほど飲んだが、コーラは妙にまずくてそれ以上飲む気にはなれなかった。
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