「佑人の兄です。突然申し訳ありませんが」
坂本は驚き、漠然と何か追い立てられるような不安にかられた。
「成瀬、どうかしたんですか?」
「いや、あれから、君たちが帰ったあと待っていたんですが、まだ帰ってないんです。柳沢から番号聞きました。携帯を切っているようでつながらないので、心当たりはないかと思いまして」
坂本はぎゅっと携帯を握り締める。
置時計の針はそろそろ七時を差していた。
「すみません、心当たり当たってみます。連絡します」
坂本は携帯を切ると、すぐ、力を呼び出した。
「成瀬が、家に帰ってないって」
「帰ってないって、あいつ、家の中に入ったじゃねぇか!」
「あのうちなら、出入り口他にもあるだろう!」
「チクショウ! あんのやろう!!」
「カフェ・リリィ」でパスタをかき込んでいた力は怒鳴りつけるように、携帯を切った。
「どうした? 力」
カウンターの中から練が聞いた。
「成瀬が消えた」
「何だと?」
俄かに空気までもがざわめきたつ。
「練、悪いがもう、証拠がためがどうたら言ってられなくなった」
力はヘルメットを掴んで店を飛び出していく。
それを見送った練は、恐持てをさらに固くしてポケットから携帯を取り出した。
『ドン』は商店街の方ではなく、住宅街への道を右へ入ったところにあった。鉄のドアの外にまでヒップホップの音が漏れている。
佑人はドアのノブを引いた。
空気が澱み、音が店全体を振動させている。店内には男ばかりが何人かたむろしていて、奥にいた男たちの顔が一斉に入り口に立つ佑人へと向けられた。
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