にっこり笑う坂本を、「何で俺のおごりだ? 調子に乗りやがって」と力は睨みつける。
「まあまあ、細かいことは気にせず。成瀬の兄ちゃん、俺んとこにもわざわざ礼の電話くれたぜ? 弟を助けてくれてありがとう、坂本くんってな」
それに対して返しようがない力はちっと舌打ちし、無意味にタローをがしがしと撫で回す。
店のドアが開いたのはそんな時だった。
「すみません、ただ今準備中で………おや、成瀬くんじゃないか。君ならOKOK! どうぞ、中へ」
業務用の断りを言いかけて入ってきたのが佑人とわかると、練は手のひらを返す。
「お、成瀬! カウントダウンパーティ、参加すんの?」
さっきからだらだらと店の奥で立ち上がろうともしなかった坂本が、いそいそと佑人のところへ駆け寄るなりハグする。
「やーん、成瀬、今日は何かえらく可愛い!」
ふかふかのダッフルコートにサーモンピンクのマフラーをぐるぐる巻きにして現れた佑人の頬は寒さの中走ってきたせいで真っ赤だった。
「ちょ……坂本……って」
いきなり抱きすくめられた佑人は一層頬を赤くする。
「坂本! 何やってんだ、てめ!」
坂本はやっと佑人を離したが、声を荒げた力と目が合って、佑人は身を強張らせた。
「あの、今日はお詫びに。先日、皆さんに大変ご迷惑を………」
「ああ、大迷惑だ! 練も練の仲間もてんやわんやだ! てめぇの独りよがりな突っ走りのお陰でな」
言葉もきつい眼差しも、今の佑人には痛すぎて、思わず目を逸らす。
あの日、車に乗せられているような感覚はあったが、ちゃんと覚醒できずに眠っていた佑人は夜中、ひどい頭痛で目を覚ました。
傍らには兄がいて、髪を撫でてくれた。
ああそうか、兄だったのかと、佑人は漠然と思った。
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