「そういえば、もうすぐバレンタインデーだよね」
「え? ああ、そうだね……」
バレンタインデーか。力はきっとチョコたくさんもらうんだろう、彼女がいるいないにかかわらず。
「成瀬、けっこうもらうだろ? チョコ」
「え、まさか」
昨年のバレンタインデーには、佑人もいくつか女の子からチョコレートをもらった。
こんな俺にくれるって、よほど物好きだよな。
バレンタインデーも和泉真奈のことを思い出すので、とっとと過ぎてくれればいい、くらいだ。
「なんかさ、チョコで決めるとかって、日本人的な発想だよね。女の子の告白の日とかさ。まあ、それも悪くはないけど。バレンタインデーってさ、一番大切な人が誰なのかわかる日、だろ? ほら、そんな映画、あっただろ」
「あったっけ……」
一番大切な人が誰なのかわかる日……か。
「俺なんか、七勝五敗」
「何それ?」
「だから、バレンタインに告白して成功したのが七回」
上谷は笑い、「大抵、次のバレンタインまでもたないんだ、これが」と肩をすくめる。
いいよな、好きな相手にチョコ渡して、泣いて、笑って、あわよくば女の子はその横を歩くポジションをゲットできるんだから。
女の子になりたいとは思わないけど、一度でいいから、そのポジションにいたかったな。
せめていがみ合いじゃなく、笑って、バカ話でいいから笑って…
佑人は力の隣で歩くことを思い描いてしまう、そんな自分を嗤った。
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