空は遠く157

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 ただ、ホームドラマから時代劇、サスペンスドラマにCMと、コンスタントにテレビや映画に出ている母は、声や特徴的なしゃべり方からも渡辺美月とわかるかもしれない。
「成瀬は、志望校としてはT大、K大、W大でいいんだな?」
 美月のことばかり考えていたので、加藤にそう言われて答えるまでやや間があった。
「あ、はい」
「今現在の成績を維持すれば、志望校はどれも合格ラインで問題はないと思います。塾には行っていないんですね?」
 美月に向き直って尋ねる加藤に、「ええ、ずっと家庭教師をお願いしております」と美月は答える。
 面談は成績のことや志望校について、穏やかに進んでいた。
「ところで成瀬さん」
 加藤がそう言ったところで、美月のバッグの中でマナーモードの携帯がブーブーいっているのが聞こえてきた。
「あ、どうぞ、電話、かまいませんよ」
 なかなか切れようとしない携帯に、加藤が気をきかせた。
「申し訳ございません、じゃ、ちょっと失礼して……」
 美月は席を立って、窓際に離れてから携帯を取り出した。
「賢ちゃん、どうしたの?」
 話しにくいらしく、マスクを取った美月は、「え、ウソ、それってもう撮ったじゃない?」と最初は小声で話していた。
「撮り直しってどういうことよ? え? 何? 香坂智成が事故?!」
 香坂智成はCMにもよく出ている上り調子の人気若手俳優だ。
 本人はつい事の重要性に一段と声を上げたのだろう、狭い部屋だから話の内容は佑人にもわかったし、加藤にも聞こえたはずだ。
「わかった、今夜、六本木ね? 仕方ないわ、ええ」
 電話を切って戻ってきた美月は今の電話の内容に気を取られてマスクをするのを忘れていた。

 


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