「多分、これのような気がする。あれ、ちょっと待てよ、俺、根本的なこと忘れてた。前は渡辺だったのが今成瀬ってことは、あいつの親、離婚、いや、再婚でもしたのか?」
坂本は佑人の兄のことを思い出した。
「あの兄弟、よく似てたし、てことは、あいつの親父が成瀬で、中学ン頃、あいつのおふくろさんが兄弟つれて再婚したとか?」
しばし首を捻っていた坂本だが、それはおいといて聖城学園中学の情報を知っていそうな友人知人からメールで収集することにした。
六限目が終わるのをイラつきながら待っていた坂本は、終了のチャイムが鳴ったとたん、教室を飛び出した。
「ちょっと、坂本くん、日直!」
当番の相方である女生徒が大きな声で呼んだ。
「わりぃ、すぐ戻る!」
仁王立ちになって坂本を睨みつけている女生徒に適当な言葉を返し、坂本は隣の教室を覗いた。
「成瀬!」
佑人は教室の後ろにあるロッカーからコートを取り出しているところだった。
「ちょっと来い」
坂本はリュックとコートを持った佑人の腕を掴むと、そのまま教室を出て進路指導や三者会談などに使われる小会議室のドアを開けた。
「一体何の用だ?」
佑人は明らかにムッとした顔で、坂本を見た。
「二つある」
坂本は佑人の視線をまともに見据えた。
「一つは、力が俺の名前を騙ったことだ。俺は仕方なく口裏を合わせざるを得なくなって成瀬の兄さんとかにも俺が山本ってことになっちまった。俺にはそんなつもりは金輪際なかったんだ」
佑人はふっと笑った。
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