空は遠く174

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 練はベーグルのサンドイッチとコーヒーをテーブルに置いた。
「このガキは何でいつもカッカきてんだ、あ?」
 力を横目に見て練は揶揄しながらカウンターに戻る。
「言っとくが、パーティのことはうっかり聞こえちまっただけだし、本人に確かめようにも俺とか、ましてや嫌いな山本くんなんかに話したりするわけないけどな」
 ジロリと力はまた険のある視線を坂本に向ける。
 こいつ、やっぱ知ってるな、成瀬の昔のことって言っても、何だとも聞きやしない。
 クッソ! 
 坂本は力を睨み返し、皿の上に一つ残っていたベーグルサンドイッチを掴んでかぶりつく。
「あ、てめ、俺の!」
「わざわざお前の不始末を成瀬に弁明してやったのは俺だ」
 涼しい顔で坂本はサンドイッチを平らげる。
「練さん、コーヒーお変わり」
「サンドイッチもう一皿くれ!」
 やがて客が入ってきたので、二人も少しばかり静かになった。
 だがタローにビスケットをやっている力を、坂本は時々横目で睨みつけている。
「何だ、成瀬くんがどうかしたのか? さっき何か言っていたろう」
 コーヒーとサンドイッチを運んできた練が不審そうに坂本に聞いた。
「いや………、別に」
 そうか、と戻っていく練の後ろ姿を見ながら、坂本は、変なやつ、と心の中で呟いた。
 練のことではない。
 今では正真正銘堅気でやってるものの、滅多に人を信用したり、懐にいれたりしないはずで、その元大きなゾクの総元締めだった男をここまでフリークにさせるとは、成瀬って変なやつ。
 俺だってな、ただの酔狂でこんなヒマなことできやしないんだぜ? 成瀬。
 坂本は落ちてくる前髪をうるさそうに掻き揚げると、コーヒーをグビリと飲んだ。

 


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