力は愛想笑いひとつせず、差し出されたチョコレートの包みを受け取った。
登校してきてその場に居合わせた生徒らに囃し立てられると、美人一年生は身をひるがえして走り去った。
「どうせ遊ばれるのわかってて、無駄なことするよな」
負け惜しみでフンと鼻で笑い、力に背を向けた時、坂本の視界の端に佑人が立ち去るのが見えた。
「あ、ちょっと成瀬」
階段の途中で、佑人は駆け上がってきた坂本に腕を掴まれた。
「なあ、今日の夕方、何か予定ある? 実は相談があって」
「悪い、来週にしてくれないか」
そっけなく言うと、佑人はまた階段を上がっていく。
「まっさか、あいつの誘いに乗るわけじゃないよな?」
坂本はボソリと口にした。
「ちょっと、力!」
ちょうど自分の教室に入ろうとした坂本が振り返ると、力に若宮が詰め寄っている。
「野沢夕子からチョコ受け取ったってホント?」
「誰だ、そりゃ」
「一年の、さっきみんな見たって」
「ああ、あれか」
「何で、そんなの受け取るのよ!」
「くれるっていうもん、しゃあねぇだろ」
のらりくらり、若宮が怒ったところで力は暖簾に腕押しだ。
若宮もそれが歯がゆいのだろう。
「今日の約束、忘れてないよね?!」
「ああ、わーかったよ」
さもうざったげに言い捨てて、力は教室に入っていく。
よくやるよ、まさしく痴話げんか。
坂本は今更ながらに力には呆れながら、席につく。
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