「声をかけようと思ったらもう帰っちゃってるんだもんな」
上谷だった。気づかなかったが携帯の着歴がいくつか入っている。
「何か用?」
「だから今夜のパーティ、行かないか? たまには息抜きも必要だって」
最初に誘われてから三度目である。昔のことを持ち出して脅すようなことはしないが、結構しつこい。
「今日、特に予定ないんだろ?」
今夜も両親は留守だし、郁磨も遅くなると言っていた。
力は若宮と過ごすに違いない。そんなことを考えると変に生々しい気がして、佑人は慌てて自分の思考を追い払う。
「わかった。どこへ行けばいい?」
ついそう返事をしてしまったのも、今夜中力と彼女のことでうざったい想像に襲われるような気がしたからだ。
シャツの上にニットのカーディガンを着て、ジーンズを履くといつものダッフルコートを羽織る。
上谷が外苑前で知人と待ち合わせているというので、佑人も地下鉄で外苑前まで行くことにした。
佑人が玄関を閉めようとすると、ラッキーが散歩に行くのかと思ったらしく一緒に出てきた。
「散歩じゃないんだ、ラッキー。ちょっと出かけてくるから、留守番頼むよ」
門のところまで一緒に歩いてきたラッキーに佑人は言った。
その時、また携帯が鳴った。
「え、ああ、地下鉄あがったところだね、わかった」
上谷が場所を指定してきたのだ。
外苑前で地下鉄を降りて地上に上がると、間もなく「成瀬」と言う声に佑人は振り返った。
近づいてきたアウディのナビシートから、上谷が降り立った。
「こっち、乗れよ」
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