「まだ手術中だ。無事を信じて待とう」
「俺の……俺のせいなんだ……出る時、ちゃんと門を……」
「佑人、佑人、ラッキーがちょっとやそっとでどうにかなるもんか。な?」
郁磨は佑人を宥めながらソファに座らせる。
「ありがとう、坂本くん」
「いや………」
坂本と呼ばれて力は苦々しい顔で郁磨を見た。
それからの三十分ほどを佑人は気の遠くなるような思いでじっと待ち続けた。佑人の肩を抱いた郁磨も、壁に凭れて腕を組んだままの力も、言葉はなかった。
手術室のドアが開いて院長の河喜多と助手を務めた女性が出てくると、よろけながら佑人は立ち上がった。
「とりあえずできることはやった」
「何だよ、ジジイ、その言い方! 大丈夫なんだろ?!」
徐に口を開いた老医師に食って掛かったのは力だった。
「手術はこれ以上にない上出来だ。だが、勝負はこれからだ。かろうじて内臓損傷は免れたものの、腹部、頭部打撲、大腿骨骨折、前足裂傷、おそらく車にはねられたんだろうが、よくうちの庭まで歩いて戻ったものだ。五歳か。まあ打撲の方は腫れが引けば問題ないだろう」
「そばに…ついてていいですか?」
老医師は佑人を見た。
「勝手にせい」
老医師がドアを開けると、佑人は酸素マスクをつけられ、痛々しげなようすで横たわる大型犬の傍に立ち竦んだ。
「ラッキー……」
身動きしない前足に触れると、佑人の目から涙がぽろぽろと零れ落ちた。
後ろから入ってきた郁磨と力はしばらくそのようすを見ていたが、郁磨は老医師の元に戻ると忘れていた礼を言った。
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