空は遠く194

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「そいつはまた……それで、大丈夫なのか? 成瀬くんとこの犬」
「まあな」
 その時ドアが開いて、力を除けば朝から二人目の客を見た途端、練にしてはこれ以上ないくらい愛想の良い顔を向けた。
「いらっしゃいませ……って、成瀬くんじゃないか」
 力も練の声につられて振り返る。
「こんにちは。あの、夕べまた、ご迷惑おかけしたみたいで、すみませんでした」
「いやいや……」
「わざわざ礼を言われるようなことじゃねぇさ、俺らがってより、坂本のやつが騒ぐから勝手にやったことだし、お前に恩を売る気はねぇ」
 練にしては優しく言葉をかけようとしたところへ力が割り込んだ。
「あのな、成瀬くんは俺に、言ってるんだ。気にしないで、何かあったらいつでも呼んでくれていいから」
 強面に似合わぬ笑顔を浮かべて練がとりなそうとする。
「いや、むしろお邪魔じゃなかったのか?」
 またしても力の嫌みな皮肉にカチンときた佑人だが、酔っていたとはいえ上谷に触られたりした時の悍ましさだけは覚えがあって鳥肌の立つ思いがした。
 それに力の部屋にいた若宮と力のやり取りがおぼろげに舞い戻り、佑人はぐっと拳を握る。
「こちらこそ、邪魔をしてしまって、申し訳なかった。若宮にも」
「んなこた、お前の知ったこっちゃねぇんだよ!」
 棘のある力の台詞は常になく佑人の胸に突き刺さった。
 そうだな、彼女と過ごすはずだったバレンタインデーを邪魔されたんだもんな、怒って当然だよな。
「それより、ワンちゃん、怪我したって? 大丈夫か?」
 練が佑人の気持ちをラッキーへと引き戻す。

 


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