空は遠く197

back  next  top  Novels


「まだやみそうにねぇな」
 片づけをしていた練がカウンターから出てきて、窓際に立った。
「ワンコ、早く良くなるといいな」
「ええ、一緒にリハビリしていけばいいって、先生が。あ、でも、山本、本気で獣医になるんですか?」
 振り返った練はにやりと笑う。
「らしいぜ。オーナーが大事にしてたちび犬が亡くなった時なんか、仕事も手につかねぇ、死にたいまで言い出すし、百合江さんも大げさだから。まあ、かなりの年だったんだがな。そん時、マジに考えたんだろ、河喜多先生んとこでたまに手伝うようになったのは、その頃かな」
「そうなんだ……」
 そんな話、それこそ啓太や東山やそれに坂本も知らないのだろう。知ってたらどこかで話題に上っていただろうし。
「まあ、おいそれとなれるってもんじゃないし、まずその前に、大学受かるかってやつだろう」
「やっぱり、山本はすごいな。ちゃんと地に足をつけてる。周りとか余計なものに左右されることもなくて、自分の行動に自信持ってて、行く先もちゃんと見据えてる」
 思いがけない力の事実を聞かされたからだろう、佑人はつい人前でそんなことを口にしていた。
「おいおい、あのガキ大将をそりゃまた買い被り過ぎだって!」
「俺なんて、周りに否応なく左右されて、バカなことやって、みんなに迷惑かけて、ほんと、俺、何やってんだろ……」
 ぱふっと佑人の頭の上に乗せられたのは練の温かく大きな手だった。
「それこそ肩ひじ張り過ぎってやつだろう。それでいいの、それが普通。あのな、みんな迷惑かけあって生きてんの。じゃないと生きてけないって。力のやつになんか、今までどんだけみんなが迷惑被ったと思ってんの」
 恐持てに優しい笑みを浮かべて、練は佑人を見おろしていた。
「ありがとうございます」
 練の言葉に目頭が少し熱くなった佑人は慌てて目をそらした。
 バン! と勢いよく開いたドアやどたどた走りこんできた一人と一匹の騒々しさに、静かな空間が破られた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ