空は遠く198

back  next  top  Novels


「何してんだよ!」
 不機嫌な第一声に、力が戻る前に帰ろうと思っていた佑人は慌てて立ち上がった。
「何度言えばわかるんだ! ドアはもちっと静かに開けろ! 壊れたら請求書回すからな!」
 練に怒鳴られようがどこ吹く風といったようすで力はまた奥のソファへ向かう。
「あ、こら、タロー、拭け! 濡れたままうろつくな!」
 練はカウンターからタオルを取り出して、力に放る。
 タオルを受け取った力は黙って雨に濡れたタローの身体を拭き始めた。
 佑人は力の方にちょっと目をやってから立ち上がってレジに向かう。
「ほい、ケーキとクッキー。またいつでもおいで。ワイン、サンキュ!」
 嬉しそうに手を振る練に会釈をして佑人は店を出た。
「何だよ、ワインって」
 むすっとした顔のまま力は練にタオルを差し出した。
「バレンタインのプレゼントに決まってっだろ。おっと、これは怒りんぼの力じゃなくて、タローにってクッキーだ。ほんっと、可愛いし、頭いいし、ったく成瀬くんってば」
「バッカじゃねーの、ただの昨日の礼ってだけだろ?! あのやろ、わざわざ礼されたいわけじゃねぇって言ったのによ!」
「だーから、これは俺に、持ってきてくれたんだってっだろ?」
 思い切りフン、とバカにしたような顔で、力は奥のソファに寝転がった。
「こら、てめぇ、ここはてめぇんちじゃねんだぞ!」
 聞く耳を持たない力を見て、今度は練が鼻で笑う。
「てめぇも成瀬くんからのプレゼントが欲しいんなら、ちゃんと優しくしてやりゃいいだろ?」
「うっせーんだよ! アイスコーヒーくれ!」
 しばらくして女性の二人連れが店に入ってきたところで、力はようやく身体を起こした。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ