ACT 22
雲が流れているな。
マグリットの空のように明るいブルーの上にぷかぷかと浮いているいくつかの雲は、さっき見た位置より明らかに移動していた。
「成瀬って空、好きだよな」
そんな台詞に佑人ははたと現実に引き戻される。
駅の近くにあるマックはこの時間学生でいっぱいだ。
「よく見てるもんな、空。大学行って空の研究でもするの?」
真顔で聞いてくる坂本に佑人は笑った。
「それ、いいな。日常って生活を追っているばっかで、あんまり宇宙だとか生命体だとか、そんなこと考えないもんな。でも例えば虫の死骸とか見つけたりすると、いきなりやっぱり生き物も高分子生体物質で造られた宇宙を構成している一つの要素だったんだとか、実はあの空の向こうには宇宙が果てもなく続いているんだとか考えるからな」
すると坂本は眉を顰めて首を横に振る。
「いかんよ、君。高校生が悟りの境地に入ったりしちゃ。もっと日常を楽しまないと。そんなのは大学行って、研究室にいる時だけ考えりゃいいの。そうだ、今度の週末、ちょっと遠出してみないか?」
週一で一緒に勉強というのより明らかに踏み込んだ申し出に、少しばかり佑人は警戒の色を見せる。
「またそうやって剣呑な顔をする。成瀬、ここんとこ上の空っぽいじゃん。たまには空気の違うところで勉強するのもいいんじゃね? ラッキーも連れてさ」
上の空か、そんなに、人にわかるほど内面が表に出ているのだろうか。
原因はわかっている。
ゴールデンウイーク前あたりに、案の定、内田が力に急接近したらしい。
休み明け、クラスの一部ではどうやら二人がデキたらしいという話題に一時沸いた。
力はいつものごとくだし、当の内田も否定も肯定もしなくて堂々としたものだ。
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