空は遠く223

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「でけぇ……」
 ナビをセットしてから、後部座席を佑人と陣取ったラッキーを確認するようにあらためて振り返った坂本はまた呟いた。
「詮索するつもりはないんだが……やっぱり渡辺美月だよな………」
 車が環八に入って信号で止まった時、練がしみじみと口を開いた。
「そうだったんだ、あの渡辺美月が母上だから、成瀬くん、極端に自分をおさえてたんだな」
「え……」
 佑人は答えに詰まる。
「実際、有名女優を母に持つって大変だろうって思ってさ、ちょっと何かするとすぐマスコミが騒ぐしな…」
「おい、練さん……」
 坂本は何を言い出すのかとぎょっとして練を振り返る。
「ま、でも俺らといる時は、んな気遣いは無用だからな。成瀬くんらしくいればいいんだぜ?」
 何を言われるかと構えた佑人の耳に練の言葉は温かく響いた。
「いやあ、実を言うと俺、渡辺美月のファンでさ、昔っから。さっきは突然本人が目の前に現れたもんだから、固まっちまって」
 練はハンドルを切りながらハハハと笑う。
「いやあ、今頃感動が湧き上がってきたっていうか」
「母が聞いたら喜びます。そういえば、ペットと入れるティールームって聞いて、行ってみたいって言ってました」
「ほんとか?」
「ちょっと練さん、前見てろって!」
 いきなり振り向いた練に坂本は怒鳴りつける。
「運転しながら舞い上がるなよ」
「フン、この辺りは俺の庭みてぇなもんよ、目つぶってても車なんか転がせる」
「目は開けてろって」
 佑人はクスクス笑う。
「練さんって、この辺りの人?」
「おう、生まれは本牧だが、ガキん時、おふくろが川崎に引っ越して以来な」

 


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