「いや、俺は優しくなんか……」
そんな風に言ってもらえるような人間じゃない。
佑人は言葉を呑み込んだ。
「イチャコラと、雨の中でもアナタがいればってか」
聞こえてきた砂味声に振り向くと大柄の男が三人立っていた。
「へえ、南澤にもこーんないい女いたんだねー」
男らは、グレイのズボンからすると近隣の私立高校の生徒のようだが、雰囲気からガラの悪さが見て取れる。
すっと内田の前に立ちはだかった佑人を男たちがニヤニヤと笑う。
「へなちょこお兄ちゃんにしちゃ、威勢がいいな」
「何か用か」
「お兄ちゃんには用はないんだな」
高校生らしさのない、下卑た表情でひときわ大きな男が一歩足を踏み出した。
「ああ、でもちょっと金欠だし、お小遣いもらおうかな」
佑人の胸ぐらに伸ばした腕を佑人は跳ね除ける。
「何だあ? お兄ちゃん、あんまり調子に乗んじゃねぇぞ、オラ!」
すぐにまた飛びかかってきた男の腕を佑人は掴み、捻りあげる。
「うぐぁあっ!」
「内田、逃げろ!」
痛みに呻き声を上げる男の腕を掴んだまま、佑人は叫んだ。
「成瀬くん!」
「早く行け!」
内田は傘を放り出して、振り返りながら路地の奥へと走り出す。
佑人はそれを追いかけようとした男の向う脛を蹴りつけてその場に倒した。
この辺りは住宅街で、夕方に近いこの時刻人通りも少ない。
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