空は遠く254

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「こいつ、ふざけたマネしやがって!」
 倒れていた男たちが案外しぶとく起き上って佑人の前に立ち塞がり、逃げるチャンスを失った佑人は三人に取り囲まれていた。
 佑人の脳裏に否が応でも中学の時に起こした事件のことが蘇る。
 あの時は無我夢中で、手加減などする余裕はなかったが、またしても家族に、美月に迷惑をかけるようなことだけは避けなくてはならない。
 佑人は三人の動きに神経を向けた。
 左から飛びかかる男の腕を避けると、すぐその腹に拳を当てる。
 今度は同時に襲い掛かる二人の男の一人を足蹴りし、もう一人の男の腕を掴んで突きを入れた。
 力を加減しているので、ひどいダメージはないはずだし、男たちは結構喧嘩慣れしているようで、よろめきながらもまた立ち上がろうとする。
 降りしきる雨の中、肩で息をしながら再び逃げるチャンスを窺おうとした佑人だが、男の一人がポケットからナイフを取り出した。
「やって……くれるじゃねーか、…え? お兄ちゃん………」
 血走った眼をぎらつかせながら、男は佑人にナイフを向けた。
 後ずさる佑人に、男はむやみやたらにシュッシュッとナイフを振りかざす。
 咄嗟に避けたものの、滅茶苦茶振り回したナイフが顔を庇った佑人の二の腕をスパッと切り裂いた。
「成瀬!」
 さらに狂暴な顔で男が佑人にナイフを振り下ろそうとした時、走り寄ってきた男を見て、三人ははっと息をのむ。
「てめーら……」
 と、一言呟いた次の瞬間、あっという間もなく二人は叩きのめされていた。
 ナイフを向けようとした男も長い足が蹴り飛ばし、倒されたところをナイフを持った手をスニーカーで思い切り踏みつけられ、ひどい喚き声をあげてナイフを落とした。
「手、潰されたいか? え?」
 冷たく低い力の声に男は声もなく頭を振った。

 


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