「とっとと失せろ」
まだそんな余力があったのか、男たちは転がるようにその場から走り去った。
塀に凭れ掛かっていた佑人は緊張を解いてその場に腰を落とした。
切られた半袖のシャツの上から腕を触ると、ぬるっとした感触に眉を顰める。
雨に混じって流れ出た血が滴り落ちる。
脳が興奮状態なせいか、痛みが感じられない。
「腕、やられたのか?!」
佑人を助け起こしながら力が怒鳴りつける。
だが立ち上がった佑人は、やんわりと力を押し戻す。
「大したことはない。ほっといてくれ」
そんな佑人の言葉など聞くようすもなく、力は佑人の怪我をしていない方の腕を掴むと、雨の中を足早に車通りがある道へと向かう。
「何だよ、離せって!」
「高校生がナイフの怪我なんかで病院行ったら、痛くもない腹を探られて警察沙汰だぞ」
佑人はハッとする。
さっきそれだけは避けなくてはと考えたばかりではないか。
「こんなもの、大したことはない」
「ばかやろ! ナイフの怪我、甘く見るな」
力が向こうからやってきたタクシーを見て手を上げた。
「お前に関係ないだろ! もう構うなよ! 俺を嫌ってるくせに!」
佑人は力の腕をすり抜けて声を上げる。
しばしの間、二人は睨み合った。
その間にタクシーが二人の前で停まり、ドアが開いた。
「関係あるだろ、内田のせいなら」
フンと鼻で笑い、力は有無を言わせず佑人を座席に押し込んだ。
back next top Novels