空は遠く256

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   ACT  25
 
 
 診察室の窓の外は中庭になっていて、古い庭園灯が雨に濡れた紫陽花の群れを照らし出していた。
「ようし、ご学友の治療終わり」
 顔は無精髭に覆われているが、鼻筋が通った鋭い目の大きな男は、佑人の腕をきれいに包帯で撒くと傍らで腕組みをして立っている力を振り返った。
「こっそり治療したい怪我ってのはお前のダチらしいが、お前には似合わないダチだな?」
 長めのぼさっとした髪は後ろでちょっと結わえてあるが、垂れた前髪の隙間から額にくっきりと五センチほどの傷が見える。
 歳は四十歳前後といったところか、一見して医師というよりはガテン系といった方がよさそうながっしりした男だ。
 たまたま休診日だったために、母屋のドアホンを鳴らして無理やりドアを開けさせた力を怒鳴りつけながらも、大きな体でうろうろと備品や医療器具などをあちこち探しまわり、一人で治療してくれた。
「クラスメイト。巻き込んじまっただけだ」
「違う。絡んできたやつが振り回したナイフを避け損ねたんです」
 佑人は医師に適当に答える力をはっきりと否定した。
「おんや、成瀬って、あの空手のじーちゃんと関係ねぇよな?」
 医師は佑人のカルテを書き込みながら尋ねた。
「祖父です。小さい頃はよくこちらの先生にお世話になってました」
「あ、やっぱり? 結構鍛えてるみてぇから、ひょっとしてと思ったんだ。クソオヤジの飲み友達の空手の先生、ここに来た時会ったぜ」
「え、宗田先生の息子さん、ですか?」
 医師はフンと笑って意外そうに見つめる佑人を見た。
 無理やり押し込められたタクシーで、運転手がバックミラー越しに佑人の怪我に気づいて胡散臭そうな視線を向ける中、力が連れて行ったのは佑人の家からだと駅向こうにある内科を看板に掲げる宗田医院だった。

 


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