空は遠く258

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 門を出るまで二人の様子を見ていてくれたのか、道路に出たところで診察室の灯りが消えた。
 辺りはすっかり暗くなっていた。
「いいよ、俺は。走って帰るし」
 医師の傘だったのだろう、黒い男物の傘は大きかったが、傘を差し掛けている力は外側の肩に雨がかかる。
「送ってかねぇと俺がやつに怒られるんだよ」
 誰に怒られようがどうも思わないような男が言った。
 それにしても男同士であれ、仲の良い友達ならまだしも、いがみ合っているような相手と一つの傘では、どうしたって言葉がない。
 だが、例え内田のことで責任を感じたにせよ、駆けつけて加勢してくれた上、佑人をタクシーに乗せた時もちゃんと佑人の鞄を持ってきてくれたのだ、本当なら礼を言って当然なのだが、力に対するいろんな思いのせいで佑人も簡単に口にできないでいた。
「あいつら、江西学院のどこのガッコにもいる手合いの雑魚どもだが、あちこちで最近突っかかったり悪さしたり、カツアゲぐらいならまだいいが、奴らにやられて泣き寝入りした女もいるみてぇだし、まあ、とにかく、さっきみてぇにナイフとか振り回したりする危ねぇ奴らだ。絡まれたら女にいいカッコみせようとか思わねぇでとっとと逃げるこった」
 佑人の家の生垣が見えてきた頃、沈黙を破って力が早口に捲し立てた。
「そんなくだらない理由であんなやつら相手にしたりしない!」
 力の言葉はイチイチ佑人の癇に障った。
 今までも中学のあの事件があってから、美月にまた迷惑をかけたりしないように、どれだけでも目立たないようにと思ってひっそり生きてきたのだ。
 さっきだって内田さえいなければ、絡まれてこんな怪我をすることもなかった。やっぱり誰かと関わり合いになって厄介ごとに巻き込まれるなんてごめんだ。
 第一、こいつと罵り合うのなんかもう嫌だ………
「もう、ここでいいから。色々世話をかけたことはすまなかった。ありがとう」
 佑人は傘から出て足早に木戸に向かう。

 


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