空は遠く278

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 食欲がないのは自分の体調のせいではない。
「……大丈夫かな? 山本。普段、丈夫なやつほど寝込むと大変かも……」
 思わず口にしたのは、自分でなくても坂本あたりが帰りにようすを見に行ってくれないかと思ったからだ。
「ん? ああ、内田行くんじゃねぇの?」
「ああ、やつら、別れた」
 東山に答えて坂本が軽く言った。
「別れた? もうかよ?」
「内田は俺に近づいた振りをしてただけなんだ、なのに」
 佑人が唇を噛むと、「成瀬のせいじゃねぇよ」と坂本の手が佑人の頭をよしよしと撫でた。
「いつものパターン、言い寄られてつき合ってみるけど、続かねーだけ、あいつは」
「だよなー、内田で何人目? 高校入ってから」
 結局、あの時の力の女が誰それだったなどと、話がそれてしまう。
 みんな力は明日になれば学校に出てくるものと思っているのだ。
 佑人もそう思いたいのはやまやまだが、今回思ったより高熱が出て寝込んでしまった佑人としてはやはり心配になる。
 もっとも、喉をやられなかったので咳が出なかったのは助かったが、幼い頃は風邪をひくとすぐ喉にきて咳が続き、苦しかった記憶がある。
 祖父が稽古をつけてくれるようになって、身体も割と丈夫になったのだ。
 それにしても常日頃いがみ合っているような俺が山本の見舞いなんて行くわけにはいかないだろう。
 ようやくあれこれ考えあぐねた一日が終わり、ここはやはり坂本に力のところによって見てくれないかと聞いてみようと思いながら、帰り支度をして玄関で靴箱を開けた時、「あ、成瀬、まだいたか」と慌てたようすで追いかけてきたのは東山だった。

 


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