空は遠く285

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「何、勝手なこと言って………」
「んっとに……てめぇはとことん、俺の自制心を鍛えてくれるぜ」
「……い、たい…離せよ……」
 やっと起き上った佑人が手を引こうとするが、ぐっと食い込みそうに佑人の手首を掴む指を力は離そうとしない。
「俺が寝るまでここにいろよ」
 目を閉じた力の言葉は急にトーンダウンする。
「………俺の話がチャンチャラおかしくて聞くに堪えないってんなら、そこのカギ、新聞受けからでも落としてってくれ。もう、二度とお前に近づいたりしねぇから」
「え………」
 あまりの出来事に機能することを忘れていた佑人の心臓がいきなり激しく鼓動し始める。
「でなきゃ、お前が持ってろ」
 しばらく佑人は力の寝顔を見つめたまま、傍らで座り込んでいた。
 勝手なことばっか並べ立てて、俺の気持なんか一切無視じゃないか。
 文句を言おうと思えばいくらでもありそうな気がした。
 力が少なくとも自分を嫌っていないのなら、嬉しかった。
 だが、普段丈夫な人間が熱を出したりすると、ひどく気弱になるものだ。
 そのせいで口にした戯言だったら………
 それでもさっき力に組み敷かれた時、その腕に抱きしめられることを望んでいた。
 むしろ熱に任せてどうにでもしてくれればよかったのに。
 少しだけ冷静になった佑人は、そんなことを考えた自分を嘲った。
 佑人にはやはり力の言葉を素直に受け取ることはできなかった。
 しばらくして大きな男が眠りについたのは、手首の指が緩んだことでわかった。
 そっとその指を外すと、佑人は言われた通り、テーブルの上にある鍵を手に取った。
 ソファの上で横たわっていたタローがぴくっと顔をあげた。
「山本のこと、頼んだぞ」
 佑人はタローに囁いて部屋を出た。

 


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