空は遠く29

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 とっくに忘れていた過去、思い出したくもない過去が突然降って湧いたように目の前に現れたのだ。
 ごめんなさいって何が? 最低って、それはそのまま君らに返すよ。
 泣いたらそれで許されると思っているんだ。女の子って便利な生き物だね。
 そうだよ、今さら何だって俺の前に現れたりするんだ。
 何で泣くの? 俺の言葉に傷ついたとでも?
 本当に傷つくって、どんなことかも知らないくせに。
 和泉真奈。
 思い出したくもなかった。一緒にいた少女にもかすかに記憶があった。
 彼女があのまま高等部に上がらず、別の高校に行ったことも知らなかった。
 勝手に現れて、勝手に泣いて、勝手に「最低」だって?
 君らに謝ってほしいとも、ましてや君らに仕返ししようなんぞとも思ってはいない。
 とにかく、金輪際俺の目の前に現れるな!
 それは佑人の切実な叫びだった。
 だが、思いがけない真奈との再会が、静かな水面に落とされた無粋な小さな石ころのように、ひっそりとした佑人の時間に波紋をもたらすことになった。
「女、泣かせたんだって? 成瀬、公衆の面前で」
 翌日、佑人が席につくなり、いきなり力が振り向いた。
 佑人のからだが一瞬震えた。
 ざわっと教室の空気が揺らぐ。
 おそらく啓太や東山が面白おかしく力に昨日の出来事を語ったに違いない。
「勝手に勘違いされただけだ」
 ようやく搾り出すように佑人は答える。
「ほんとか? 成瀬くん、実は裏では結構やり手だったり。火のないところに煙はたたないっていうしな」
 佑人を揶揄する力の言葉の一つ一つが棘を持ち、佑人の心を突き刺していく。
「俺がどうあれ、山本に何か関係があるか?」
 佑人は眉をひそめた。

 


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