空は遠く30

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「おーっと、怖いねぇ、美人が怒ると。それともそれがホントのお前?」
 周りのざわめきが大きくなった気がした。
 佑人に投げかけられる好奇の視線。やがてそれは連帯という意識によって武装され、彼らの標的に向かって攻撃を始めるのだ。
 まるで佑人にとってのあの忌まわしい過去の時間がフィードバックしたかのように、心を冷やしていく。
 侮蔑を含んだような笑みを向ける力の目に、佑人は限界だった。
 静かに、ただなるべく静かに佑人は教室を出た。
 そんな言葉を聴きたくはなかった。
 そんな目を向けられたくはなかった。
 少なくとも力にだけは。
 担任の加藤が呼んでいたようだが、それに応えられるだけの余裕は持ち合わせてはいなかった。
 机を蹴り倒さなかっただけましか。殴りかからなかっただけ、大人になったかな。
 佑人は自嘲し、そのまま歩いて学校を出た。
 リュックは忘れたが、財布も鍵も携帯もポケットに入っている。
 とりあえず、今日は帰ろう。加藤先生には、明日、急に気分が悪くなりましたとでも言おう。
 家に帰ると、佑人は走ってきたラッキーをしばし抱きしめてから、自分の部屋にあがった。
 今日は皆出払っていて、誰もいないはずだ。
 何だか頭が熱い。そういえばさっきから寒気がする。
 ひょっとして昨日の雨で風邪を引いたのかもしれない。
 佑人はコートと学ランを脱ぐと、椅子に放り、ベッドにもぐりこんだ。
 ラッキーが心配そうに佑人のあとをついてきて、ベッドの足元に座る。
 少し眠ろう。眠って何もかも忘れよう。
 そうすればきっと明日はまた、いつもの自分に戻れる。
 身体中が一度に活動を停止するように、佑人を眠りに引き込んでいく。
 だが、そんな佑人を悪夢が追いかけてきた。

 


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