「おーっと、怖いねぇ、美人が怒ると。それともそれがホントのお前?」
周りのざわめきが大きくなった気がした。
佑人に投げかけられる好奇の視線。やがてそれは連帯という意識によって武装され、彼らの標的に向かって攻撃を始めるのだ。
まるで佑人にとってのあの忌まわしい過去の時間がフィードバックしたかのように、心を冷やしていく。
侮蔑を含んだような笑みを向ける力の目に、佑人は限界だった。
静かに、ただなるべく静かに佑人は教室を出た。
そんな言葉を聴きたくはなかった。
そんな目を向けられたくはなかった。
少なくとも力にだけは。
担任の加藤が呼んでいたようだが、それに応えられるだけの余裕は持ち合わせてはいなかった。
机を蹴り倒さなかっただけましか。殴りかからなかっただけ、大人になったかな。
佑人は自嘲し、そのまま歩いて学校を出た。
リュックは忘れたが、財布も鍵も携帯もポケットに入っている。
とりあえず、今日は帰ろう。加藤先生には、明日、急に気分が悪くなりましたとでも言おう。
家に帰ると、佑人は走ってきたラッキーをしばし抱きしめてから、自分の部屋にあがった。
今日は皆出払っていて、誰もいないはずだ。
何だか頭が熱い。そういえばさっきから寒気がする。
ひょっとして昨日の雨で風邪を引いたのかもしれない。
佑人はコートと学ランを脱ぐと、椅子に放り、ベッドにもぐりこんだ。
ラッキーが心配そうに佑人のあとをついてきて、ベッドの足元に座る。
少し眠ろう。眠って何もかも忘れよう。
そうすればきっと明日はまた、いつもの自分に戻れる。
身体中が一度に活動を停止するように、佑人を眠りに引き込んでいく。
だが、そんな佑人を悪夢が追いかけてきた。
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