「おう、全然、OK!」
「じゃ、十一時頃兄と迎えにいくよ。昼食べてから行こう」
「悪ぃな。そういや、成瀬の兄貴って、すんげ強ぇんだって?」
一緒に教室を出ながら、東山が拳を突き出してみる。
東山は喧嘩でも何でも、強いという相手には敬意を表するのだ。
「まあ、一応、高校の時、空手で優勝してるけど」
「成瀬は部活やんなかったんだ。まあ、うち、弱いけどな」
佑人は苦笑する。
「俺なんか、ダメだよ、てんで」
「またまた、実は強ぇくせに」
教室を出る時、力の視線を感じたような気がしたが、また何かいがみ合いのようになったらと思うと、視線を向けることさえ怖くなってしまった。
二日の休みがあれば、少しは心静かに過ごせるようになるだろう。
「な、怪我、もういいのか?」
東山が思い出したようにこそっと佑人に耳打ちする。
「ああ、今日、帰り宗田先生のとこ寄って、絆創膏にしてもらおうかと思って」
包帯をせず絆創膏だけなら袖口からちょっと見える程度だろう。
二人が駅の改札口で別れた頃、坂本が三年E組の教室に駆け込んできた。
「力は? 帰った? 成瀬は?」
教室内に残っていた生徒が、佑人はとっくに帰ったし、力はサッカーの練習に行ったことを教えてくれた。
「くっそ、日直なんか真面目にやってたから」
三年E組のサッカーチームは山側にある裏のグラウンドで練習をしていた。
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