空は遠く39

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 日本に戻ってきた頃、どうかすると日本語ではなく英語が出てしまうために、学校でからかわれることが嫌で、佑人は極力人前で話すことをやめていたのだが、そんなこともどうでもよかった。
 クラス中が呆気に取られて佑人を見つめる中、佑人は教室を出た。
『おい……どこへ行く? 渡辺…』
『あなたの授業で得るものはもうありません』
 もっとも、転校を決めていなければ、そんな捨て台詞を残すこともなかったかも知れない。
 おそらく兄の郁磨は気づいていたのだろう、裏サイトでの佑人に対する攻撃に。
 父一馬から、少し遠いが、比較的歴史の新しい学校で知り合いが教員をしていると、転校を持ちかけられたのは前の晩のことだ。
 そして、佑人がこんな目にあったのは自分のせいだと、祖母の峰子の申し出で佑人の渡辺姓を元の成瀬に戻すことになった。
 以来、渡辺佑人という名前は消え、成瀬佑人として中学三年の残り数ヵ月を比較的穏やかに過ごすことができた。
 けれど心に受けた傷は佑人自身が思っている以上に大きかった。
 家族にはもう二度と迷惑をかけたくなかったから、元気になった佑人をずっと演じ続けながら、決してもう誰も寄せ付けようとはしなかった。
 世の中全てに対して、期待することを放棄した。
 受験した都立南澤高校は佑人の実力でいえば随分ランクは落ちるが、佑人にしてみたらそんなことはどうでもよかった。
 家に一番近いから。
 それだけの理由で選んだ高校で、思いがけず再開したのは、小学校で出会った佑人にとってのスーパーマン、山本力だった――――。
 引き摺っていた嫌な過去をどこかへ押しやってくれるほど、強烈に佑人を引きつけてやまなかったはずの存在。
 そんな力が今放った棘は鋭く、完全武装のはずの佑人の心を抉った。
 俺が何かしたか?
 彼を傷つけた覚えも、嫌われることをした覚えもないのに。
 何故?

 


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