ポカン、と啓太は郁磨の肩に手を置くメガネ美人を見上げた。
「えーーー、お、お母さん?!」
「ああ、うちの親、生まれたときから隣同士で、未だにみっちゃん、かずちゃんだから、俺らも母さんとか呼んだことなくて」
目を白黒させて見つめる啓太に、郁磨が言葉を挟む。
「とりあえず、ありがとう、わざわざ鞄持ってきてくれて。佑人が起きたら伝えておくよ」
「あ、はい、じゃ、失礼します」
深々と頭を下げる啓太の横で、ちょっと会釈をして力は踵を返す。
ラッキーは門まで二人を送るようについてきたが、力が「ここまでだ。じゃあな」と言うと、わかったかのようにワン、と一声啼いて玄関へと走っていった。
「びっくり、オフクロさんだって、美人だったよな、メガネだけど」
門を離れてしばらく歩くと、啓太が呟いた。
「うちのオフクロとは、デイウンの差……」
「バーカ、それをいうなら雲泥だ」
「あっ、そういや何で坂本なんて言ったんだよ」
啓太ははっと思い出して力に聞いた。
「言うなって顔するから、黙ってたけど」
「俺、あいつに嫌われてるからな」
力はボソリと口にする。
「あいつって、成瀬のことか? 別に嫌ってなんか……あ、今朝、あんなこと言うからじゃん! だから成瀬、怒って……」
「じゃねーよ、もっと前っからだ。あいつお前がいなきゃ、俺らなんかとつるんでねーさ。それに俺らのこと、あの兄貴とかが、どんなやつか加藤とかに聞くかも知れねぇし」
担任の名前を挙げて、力は続けた。
「坂本っつっとけば、学年トップのあいつとつるんだっておかしくないって思うだろーがよ」
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