「何だよぉ、それぇ。んじゃ、俺なんか、超ヤバいじゃん」
力はふっと笑い、シュンとする啓太の頭をくしゃっと撫でる。
「な、俺は犬じゃねー!」
啓太は力の手を振り払う。
「お前のノートが成瀬の役に立てばいいんだがなー」
「俺は真剣にやったんだぞ! 英語だって……スペルはたまにちょっとくらい違ってるかもしんないけどよー」
力はまたそんな啓太の頭を撫でる。
「ああ、よしよし」
「だーから、やめろって…」
啓太は力の手を振り払ってずんずん前を行く。
一年の時知り合ってすぐ、啓太が単純で少々勉強ができなくても憎めない男だとは力にはわかった。
表裏がないから、言葉通り何でも素直に受け取る。
佑人には世話になっているから、と、日頃まともに授業なんか聞いていないような啓太が佑人のために懸命にノートを取っているのをからかい半分見ていた力は、せがまれて不承不承とはいえ佑人の家までついていったのだ。
「おい、帰れるか? ひとりで」
私鉄の駅までくると、力は前を歩いていた啓太に言った。
「ガキじゃねー! って、力、隣駅だろ?」
「母親んとこ、寄ってく」
「ああ、うん、じゃ、明日」
「おう」
啓太が駅に消えると、急行が通り抜けてから遮断機が上がるのを待って、力は駅の横の踏切を歩いて渡った。
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