空は遠く54

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 えっ、と振り仰ぐと、心配そうな啓太の目が覗き込んでいた。
「ああ、ありがとう。昼メシは買ってきてるから、平気」
「うん、なら、いいけど、無理すんなよ」
「啓太、行くぞ!」
 戸口のところから力が怒鳴った。
「でけぇよ、声!」
 慌てて力の元に駆けていった啓太の肩に力ががしっと腕を回すのが見えて、佑人はまた嫌な気分になる。
 ありふれた何気ないそんないつものやりとりさえ、今の佑人には心を乱す棘となって突き刺さる。
「うそっ、ナミ、ついにイブ、彼とお泊り?!」
 割と席が離れているのだが、コンビニの袋からサンドイッチと牛乳を取り出して静かに食べていた佑人の耳にも、いきなりそんな声が聞こえてくる。
「ミカコだって、スノボ行くっていったじゃん、カレシと」
「だってぇ、イブ、ホテル取れなかったもん。翌日だよ、翌日」
「イブの前に、期末、あるの忘れてない?」
「ちょっとぉ、やなこと思い出させないでよ!」
 教室に残っているのは、女子のグループが二つと、他には、佑人と同じように一人で弁当を広げながら受験勉強に勤しんでいる者や寝ている者くらいだ。
 大抵、佑人を含めているのかいないのか気にもされていない面々だから、女子の声は遠慮も何もない。
 イブか……力もあの子と……
 胸の中をどす黒い感情が渦を巻く。
 もうあいつを追うのやめるって決めただろう!
 ダチにさえなれない、ましてや…………っ!
 佑人はふがいない自分を嘲笑う。
 窓の外に目をやると、どんよりと、空は今にも大粒の雨が落ちてきそうな色をしていた。

 


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