だが次に口をついて出た言葉は、さらに力の怒りを逆撫でした。
「きっさま…、こいつはできねーなりにケナゲにノートなんか取ったりしたんだぞ」
力は佑人の胸倉をつかみ、佑人を睨みつけた。
「フン、てめぇがどういうやつか、よくわかったぜ!」
力に思い切り突き飛ばされ、佑人はふらついてロッカーにぶつかった。「おい、力、もうやめ……」
情けない顔で啓太が力を止めようとその腕を掴む。
「今さら、お前だって平気で俺にタカってたくせに? ま、別にいいけどさ。小遣いならいくらでももらえるし」
捻くれた言葉を並べ立て、佑人は平然と力を見返した。
「………失せろ!」
力の唸るような言葉に、佑人は黙ってリュックを拾い上げ、二人に背を向けた。
雨の音さえ聞こえないほど、佑人の中では力の声が幾度も繰り返される。
しばらく歩くと膝がガクガクして、転びそうになるのを必死で堪えた。
…………どうせなら、どうせなら徹底的に嫌ってくれればいい。
行き場のない思いなど、捨ててしまわなけりゃ!
もう、とっとと思い切れよ! ウザいよ、俺!
きっともう、望まなくたって終わりだけどな。いっそサバサバと、明日から「ひとり」でいられる。
『こいつはできねーなりにケナゲにノートなんか取ったりしたんだぞ』
ふいに力の言葉を思い出したのは、自分の部屋に戻ってからだった。
あの時は気持ちが昂ぶっていて、考える余裕がなかったのだが、何やら気になって鞄を開けて中を確かめた佑人は、見慣れないノートを見つけた。
「え………」
ぱらぱらとめくると、落書き交じりの書き込みが続いた後、数ページに渡り、うって変わって丁寧に、世界史、現国、物理、数学、英語と、佑人が休んだ日の教科が順番に書き込まれていた。
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