空は遠く61

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    ACT  9
 
 季節はクリスマスシーズンを迎え、街は歳末商戦の盛り上がりとともに活気づいてきた。
 学校の帰りがけ、ちょうど電車に乗ろうとしたところで、美月から携帯に電話が入った。
「え、ああ、わかった。駅の向こう側の時計屋だね、うん、大丈夫」
 修理に出した時計を引き取ってきて欲しいという。
 駅の向こう側の時計屋というのは、佑人が使っている南口ではなく、北口を出て通りを少し歩いたところにある気難しい昔気質の親父がやっている店だが、美月や一馬の同級生の父親で、子供の頃からのつき合いだ。
 美月の亡くなった父親の時計を預けたのだが、今は一馬が大事にしているものだった。
 佑人の降りる駅まで学校からは急行なら一つ目、各停なら三つ目だが、佑人はいつもゆったりできる各停に乗っている。
 でもゆったりできるというのはただの理由付けで、本当は、朝、力が隣駅から乗ってくるからだった。隣の駅は急行が停まらないのだ。
 桜の季節、たまたま乗った各停に力の姿を見た時のことは、今も鮮明に覚えている。
 たまにすし詰めの車内の中に頭ひとつ大きな学生服を見つけると、やはり少し嬉しくて、でも声をかけるでもなく、知らぬふりを装った。
 そんな時も大抵、同じ高校の制服の男女何人かに囲まれているので、仮に声をかけようとしても佑人の割り込むような余裕はなく、電車を降りても佑人はひっそりと彼らから離れて歩く。
 ついいつものくせで各停に乗ってから、そういえばもうやめたんだっけと自分を嘲笑う。

 


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