空は遠く63

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「都立南澤?」
「はい」
 女性ははっきりした顔立ちで優しい笑顔をみせた。
「このバカ犬を私に押し付けたうちのバカ息子もそうなのよ。あなたみたい礼儀正しけりゃいいんだけどねぇ」
「え、高校生の息子さんがいらっしゃるんですか?」
 母の美月も若々しく見えるが、佑人も思わず聞いてしまうほど、女性は若く美しかったからだ。
「見えないでしょ? ふふ。だって、十九の時の子だから」
「なるほど」
「でも、いくらララちゃんが亡くなってあたしが泣いてたからって、こんなバカ犬、しかもバカでかいの押しつけなくたって!」
「ララちゃん?」
「ポメラニアンでちっちゃくて可愛い子だったのよ」
「わかります。うちでも以前大事にしてた犬が亡くなりましたから。でも、息子さん、心配してたんですよ。タローがいれば、お母さんが泣く暇もないと思って」
「まあ、ねー、でもこんなの、図体ばっか大きいくせにめちゃくちゃ甘えん坊で」
「毅然として命令すれば大丈夫ですよ、躾はできてるみたいだし」
「そぉお? 息子の言うことは聞くみたいだけど、あ、そこそこ、うちの店」
 坂を少し上がった四つ角の一角に建つ、クリスマスアイテムに彩られた喫茶店は、ちょっと外国のカフェを思わせる造りで、天気がよければオープンカフェも心地よさそうだ。
「百合江さん、どうしたんだよ!」
 二人がたどり着く前に、ドアが開いてパリッとした白いシャツに黒いタブリエをまとった長身の男が飛び出してきた。
「ああ、練ちゃん! このバカ犬が急に走り出しちゃってさー、足くじいたみたい。んで、この子が捕まえてくれたんだけどねぇ」
 恐持ての顔は練ちゃんと呼ばれるには少しばかり違和感がありそうだが、百合江を佑人から奪い取るように軽々と抱き上げて店内に運んだ。

 


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