「どうぞ、あんたも入って」
「あ……はい」
男は睨みつけるような目を佑人に向けたが、成り行き上タローを連れて入ると、佑人はほっと息をついた。
入ってすぐのショーケースにはケーキや焼き菓子などが品よく並んでいる。
奥の大きな窓際には座り心地のよさそうなソファと大きめのテーブルがあり、何組かのテーブルもゆったりと空間を使って置いてあった。
全体が落ち着いたブラウン調の色で統一され、タローが歩く床は、犬の足にも負担をかけないよう、滑り止め処理を施したフローリング素材を使ってあるようだ。
奥では大きなクリスマスツリーが楽しげに客を出迎えてくれる。飾りつけも必要以上にゴテゴテしていない。
夕暮れ時の店内では、二組の客がそれぞれミニチュアダックスや柴犬連れで和やかにお茶を楽しんでいた。
「あら、どうしたの、百合江さん」
「足、怪我したの?」
客は馴染みのようで、練が百合江を椅子におろすと、口々に声をかけた。
「タロー、伏せ」
練が氷を袋に入れて百合江の捻挫した足首にてきぱきとタオルで巻きつけるのを、佑人はしばし所在無く見ていたが、タローは佑人の命令にすんなり従って床におとなしく伏せた。
「あらやだ、今日会ったばかりなのに、私より言うこと聞いてるし」
「うちにも今、この子くらいのがいますから」
「そうなの、あ、練ちゃん、彼にあったかいものお願い。えっと、何くんだったっけ?」
「成瀬といいます、あの、おかまいなく」
「そうはいかないわよ、迷惑かけたんだから。そこに座って座って。成瀬くん、ほんと、礼儀正しくて、お品が良くて、それに超可愛いし!」
肌の色によく合う明るめの色にカラーリングした長い髪を揺らして、百合江はチャーミングな笑顔を向ける。
「カフェオレでいいか?」
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