空は遠く66

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「いいわよ、私がごちそうするから。もう、ほれぼれしちゃう! 成瀬くん、うちのバカ息子に成瀬くんのつめの垢でも煎じて飲ませたいっ!」
 女子高生並みにキャピキャピと目にハートのマークでも浮かんでいそうな百合江の口ぶりに、佑人は苦笑いする。
「あ、いえ、昔、親の都合であっちに住んでたことがあったってだけで…。あの、母に修理出した時計引き取ってくるように言われてるんで、そろそろ……」
「あら、そっか、お引止めして悪かったわね、練ちゃん、ビスケットとケーキ、全種類包んであげて。あなたのワンちゃんに持ってって」
「え、いや、俺、自分で買っていこうと……」
「何言ってるの! 成瀬くんからお代はもらえないわよ。また来てやって。あ、うち、どこ?」
「南口の方です」
「今度はワンちゃん連れてきてね~ あ、たたた……」
「ちょ、座っててください。病院、行った方がいいですよ」
 立ち上がろうとした百合江を慌てて佑人が宥めると、百合江は悔しそうに椅子に座りなおす。
「宗田先生のとこ、あとで連れてく。電話しとけば診てくれるだろ」
 そう言いながら、練は全種類を二個ずつ箱に入れ、佑人は大きな箱を入れた紙袋を持たされた。
「ごちそうさまでした、またお邪魔します」
「待ってるわよ~ 成瀬くん」
「おう、今度俺にエーゴ教えてくれ」
「……はい」
 百合江には投げキッスで送られ、恐持ての顔には半ば本気で嘆願された。佑人は苦笑を禁じえず、タローをちょっと撫でてから店を出る。
 ちょうどそこへ宅配の車が停まり、降りたった宅配業者が抱えた荷物を持ってドアを開けた。
「山本さんのお宅はこちらでよかったですかぁ? ええと、山本百合江さん」
 思わず佑人は振り返る。

 


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