空は遠く73

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 啓太には礼を言ったが、一緒に鞄を持ってきてくれたという坂本には何も言っていなかったことを佑人は思い出した。
「礼?」
「風邪で早退した日、高田と一緒に俺の鞄届けてくれたんだろ?」
「鞄? あ、ああ、そう、そうだったな」
 佑人は坂本の妙な反応に怪訝な目を向ける。
「ありがとう。じゃ、家庭教師の件は柳沢さんに確認してみるから」
「お、おう、よろしく頼むわ」
 坂本は木戸を開けて佑人が中に入るのを見届けると、肩を落として深くため息をつく。
「うーん、間近でしみじみ見ると、マジ、超美人じゃねーかよ」
 腕組みをして、坂本はしばし木戸の向こうに思考を飛ばしていたが、ポツリポツリと空から雨粒が落ちてきた。
「ゲ……、降ってきやがった。にしてもこいつぁ、ちと手ごわいな。バリバリ、バリヤ張ってやがんの」
 呟きながら、坂本は今来た道を駅へと走った。

 夕暮れ近くになると、次第に雨が強くなった。
「本降りになったなぁ」
 カフェ・リリィでは、マスターの練が窓の外を見ながら呟いた。
「早めに傘たて準備しといて正解っすね」
 金髪にピアスのひょろ長い青年が、床をモップで拭きながら言った。
 今しがたまでいた客が本降りになる前にと慌てて帰ってから、店内には窓際のテーブルを占拠しているでかい図体の高校生とこれまたでかい犬の一組だけになった。
 学ランのボタンをはずし、ヘルメットに肘をもたせかけてソファにふんぞり返っている学生の膝に犬はあごを乗せ、ソファを占領している。
 くつろいでいるそれを見た練はあからさまに眉をひそめた。
「おい、力、タロー、ソファからどけろってっだろ」
「いいじゃねぇかよ、今、客はいねぇんだし」
「くせになる。のけろ!」

 


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